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【Ⅰ】造形カリキュラムの基本的な考え4.子どもの造形活動にみえるいくつかの節目(1)イメージの保持の出現子どもが意図的にする模倣には、即時模倣と延滞模倣があることは良く知られています。即時模倣は目のまえで保育者が手を振れば手を振る、よっこらしょと腰を下ろせばおなじようにすることをいいます。それに対して延滞模倣は、過去の経験の再現として行われるものです。たとえば、両手を合わせて首をかしげ、目を瞑って「ねんね」といいながら寝たふりをする子どもは、"寝るイメージ"をその子なりの色あいで自分の中に保持していて、それを引っ張りだして使うことができるので、いま目のまえにないことがらでも模倣できるのです。これを延滞模倣と呼びますが、これができるようになるとごっこ遊びも活発化します(模倣も象徴機能の一つです)。
このイメージの保持が造形にも深く関わることは、想像に難くないでしょう。対象物を目のまえにしなくても子どもたちは描くことができますが、それはイメージの保持ができているからです。しかもそれが造形に重要なのは、そのイメージが一人ひとり異なることです。だいすきなお父さんを描こうというとき、お父さんでならないという制約のなかで、子どもたちにはそれぞれ、自分のお父さんのだいすきなところを思い描く自由が与えられており、その自由の中にこそ、子どもの個性はあるのです。
「よく見て書こう」ということが描画で言われるのは、見なくても描けるからですが、ではイメージの保持以前の子ども、まだ延滞模倣ができない子どもの造形活動はどのようでなければならないのでしょう。
壁によりかからずに座ることができて両手が自由になれば、子どもは筆で画用紙に描くことができます。歩けるようになればイーゼルに画用紙を用意してあげましょう。そうすれば子どもは身体ごと移動して描画を楽しむことができます。楽しむといいましたが、子どもの様子を見ているとほんとうに楽しそうです。楽しいだけではなく、真摯なまなざしで取り組んでもいます。それは、まっしろの画用紙に自分の行為の結果として美しい色彩とフォルムが出現し、塗り重ねればそれがどんどん変化してゆくので、驚いているのです。何かを意図して描いているわけではなく、絵筆で"とんとん"したり、"シューッ"としたりすることがおもしろく、その結果がすぐに画用紙に出現することが興味深いのです。ですから保育者は、子どもの驚きがよりゆたかになるように色を工夫しなければなりませんし、傍らにいて出現した色彩とフォルムにさまざまな言葉を添えて子どもに返さなければなりません。
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